映像や動画制作において、ホワイトバランス(WB)の重要性をご存知でしょうか?
しかし、映像制作においてホワイトバランスの理解は「白を白に見せる」だけにとどまりません。
より一歩踏み込んで知識を深めることで、作品全体のクオリティを格段に向上させることが可能です。
たとえば、次のような経験はないでしょうか?
こうした問題の多くは、ホワイトバランスの設定が適切に行われていないことが原因です。
私自身、企業PR映像などで企画から撮影・編集まで一貫して手がけることもあれば、編集のみを担当するケースもあります。 その際、提供された映像素材のホワイトバランスが不適切で、色味の整合性を取るのに苦労した経験がございます。
今回は、映像の美しさを大きく左右するホワイトバランスについて、丁寧に解説していきます。
動画制作におけるホワイトバランスの設定

これから本格的に映像制作に取り組みたいと考えている方は、まず撮影時のホワイトバランス(WB)を「オート」ではなく「マニュアル設定」に切り替えるところから始めることをおすすめします。
もちろん、状況によってはオートホワイトバランスが適している場合もあります。たとえば、現場の光環境が常に変化するようなドキュメンタリー撮影や、取材・イベントなど“一発勝負”の現場では、オートでの安定性が役立つこともあるでしょう。
しかし、CMや商品プロモーション、ブランディングPRなど、意図的に画づくりを行う撮影現場においては、ホワイトバランスをマニュアルで設定し、統一感のある色味をキープすることが映像の完成度を左右します。
ホワイトバランスとは?なぜ調整が必要なのか

人の目はとても優秀で、どんな光の下でも「白いものは白」と自然に判断することができます。
たとえば、雨の日も晴れの日も、蛍光灯の下でも、白い紙は白く見えますよね。
しかし、カメラの目はそうはいきません。
たとえば暖色系の照明(電球など)で撮影すると、白いお皿がオレンジっぽく見えてしまい、逆に寒色系の照明(蛍光灯など)では青みがかって見えることがあります。
これは、カメラが「白」を正しく認識できていないからです。
つまり、光源の色に応じてホワイトバランスを調整しないと、本来の色味が正しく表現されないのです。
下の例は、同じシーンをホワイトバランスの設定だけ変えて撮影したもの。色味の違いで、写真の雰囲気そのものが大きく変わっているのがわかります。


そのため、お皿を本来の白で映すには、その場の光源に合わせたホワイトバランスの設定が必要になります。
とはいえ、ホワイトバランスは常に手動で設定しなければならないというわけではありません。家族との日常を撮るファミリー動画や、趣味での記録映像であれば、カメラに搭載されているオートホワイトバランス(AWB)でも、特に問題なく撮影できるケースが多いでしょう。
ただし――
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業務用の撮影(PR映像、インタビュー、商品紹介など)
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複数台のカメラを使う現場
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時間帯によって光が変わる場所
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映像のクオリティにこだわる作品
といった現場では、オートではなくマニュアルでの設定が必須な場合が多いです。
色味のズレや映像の印象の不統一は、仕上がりに大きな影響を与えます。特にプロレベルの制作では、ホワイトバランスを正しく設定することが基本中の基本といえるでしょう。
つまり、ホワイトバランスは「正確な色再現」だけでなく、シーンの雰囲気や時間帯のニュアンスを表現するための、重要な映像表現のひとつなのです。
適切にホワイトバランスを調整することで、洗練された、美しく印象的な映像を撮影できるようになります。
色温度について理解する

ホワイトバランスを調整する際に重要な指標となるのが、色温度(単位:K=ケルビン)です。
色温度の数値が低いほど 暖色系(赤み・オレンジ寄り) になり、高いほど 寒色系(青み寄り) になります。
たとえば、以下は代表的な光源とその色温度の目安です
タングステン:3200K
蛍光灯:4000K〜5000K
晴天時の自然光(昼間):5,600K 前後
曇り空:6500K〜
ただし、実際の現場では光源の種類や周囲の環境により、この数値は多少前後することがあります。あくまで「目安」として捉えておくと良いでしょう。
色温度は
・高い方が青い
・低い方が赤い
この記事を読んでいる読者の中で、もし今手元にカメラがある方は、ホワイトバランスをマニュアルに切り替えて、K(ケルビン)値を変えてみるのが一番手っ取り早く理解できる方法です。
たとえば、カーテンを閉めた室内で蛍光灯の下にいる場合、4,000〜5,000K前後が適正な色味になることが多いです。
例えば、ホワイトバランスを 6,500K(青が強い環境) に設定すると、カメラは 青っぽい光源下でも白が白に見えるよう、赤みを足して補正しようとします。つまり、色温度を上げる=青くなる環境を想定=カメラは赤を足すという仕組みです。
しかし、カメラのホワイトバランス設定では、K(ケルビン)値を上げると、逆に画が赤くなるので注意が必要です。「え?逆じゃないの?」と思われた方もいるかもしれませんが、これはカメラがホワイトバランス補正を行っているからです。
このようにホワイトバランスは「白を正確に白として映すため」の設定ですが、逆にこれを積極的に操作することで、意図的な色調演出も可能になります。
ホワイトバランスを意識するだけで、編集作業が劇的にラクに!

撮影時にホワイトバランスを固定しておくと、編集での色補正作業が格段にラクになります。
AWB(オートホワイトバランス)だと、光の変化に応じて色味がコロコロ変わり、編集時に統一感を出すのが大変になることも。特に自然光が入る現場では、基本的にマニュアルでのWB固定が大切です(現場にもよりますが)。
見た目の統一感と、編集効率の両方を高めるためにも、撮影時のWB設定はとても重要です。
ホワイトバランスは「絵作り」の基礎

室内照明(例:3000K)と太陽光(約5500K)が混在する現場では、ホワイトバランスの設定が難しくなります。
どちらかの光源に基準を合わせる必要があり、例えば室内照明に合わせると窓側は青くなり、太陽光に合わせると照明が赤っぽく見えてしまうことも。
このような場合、多くの現場では太陽光を基準にし、照明を一時的にオフにするか、色温度調整可能な照明(バイカラー)を導入します。
どうしても備え付けの照明を使いたい場合は、カラーフィルターを活用して、照明の色温度を調整することで、全体のバランスが取りやすくなります。
予算が潤沢な大規模撮影では、窓にカラーフィルターを貼ったり、天井照明自体を交換することもあるかもしれません。
ただし、一般的な企業PR動画やインタビューなどの小規模な撮影であれば、例として、色温度調整可能な照明を2灯ほど用意しておけば、柔軟に対応可能なケースが多いかもしれません。(現場によりけりですが)最近では、バイカラー対応のLEDライトが主流となっており、環境光とのバランス調整もスムーズに行えます。
ここまで色々と解説してきましたが、ホワイトバランスは、撮影時における“絵の美しさ”や“雰囲気”を左右する非常に重要な要素です。
現場の光環境に応じて適切に設定することで、編集時の手間を大幅に減らせるだけでなく、意図した映像表現にも近づけます。
今回は、ホワイトバランスの基本的な考え方や設定方法についてお伝えしましたが、ぜひ実際にカメラを触って、いろんな環境で試してみてください。本記事が、皆さんの制作活動に少しでも役立てば幸いです!